イヌリンの特許

アイキャッチ|イヌリンの特許
アイキャッチ|イヌリンの特許

特許庁のデータベース(J-PlatPat)で、請求の範囲に「イヌリン」とその別名を検索し、出てきた3,071件を整理したページです。

順位はつけません。おすすめもしません。誰が何を権利にしようとして、それが通ったのか、通らなかったのかを、そのまま並べます。検索条件も全部書いてあります。

最初に ── 特許は、効果の証明ではありません

読み始める前に、ひとつだけ確認させてください。

特許が認められたというのは、新規性と進歩性があると特許庁が判断したという意味です。その発明に効果があると国が認めた、という意味ではありません。審査官は、明細書に書かれた実験を追試しません。データは出願人が自分で出したものです。

そして、出願が公開されることと、権利になることは、まったく別です。出願は1年半後に自動的に公開されて番号がつきます。その時点では審査が始まっていないこともあります。「特開2024-○○○○○」という番号は、審査に通った証ではありません。

商品に「特許取得」と書かれていても、その特許が何を権利にしているかは、番号を調べないと分かりません。効果の特許ではなく、製造方法や容器の特許かもしれません。

実際に、今回集めた3,071件がどうなったかを数えてみました。

出願(重複を除く)3,071
拒絶・却下された1,070
いま権利が有効752
すでに消滅493
審査中・審判中など324
表示なし(古い案件)430

登録番号がついたものは1,469件(47.8%)。そのうち今も権利が生きているのは752件で、全体の約4分の1です。「表示なし」は、制度が変わる前の古い案件でステータスが記録されていないものです。

出願の3件に1件は権利になりません。この数字を頭に置いたうえで、先を読んでください。

この数字は、どこから来たか

使った検索条件を全部書いておきます。同じ条件を入れれば、誰でも同じ結果にたどり着けるはずです。

  • データベース/特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)の特許・実用新案検索
  • 検索項目/請求の範囲。要約や明細書の全文ではありません
  • 検索語/イヌリンとその別名7語を、それぞれ単独で検索して足し合わせました
  • 対象/国内文献のみ。外国特許は含みません
  • 取得/2026年9月
検索語 件数
イヌリン 2,109
フラクトオリゴ糖 787
フルクタン 317
フルクトオリゴ糖 308
オリゴフルクトース 123
フラクタン 83
オリゴフラクトース 9
重複を除いた合計 3,071

この検索でできないこと

正直に書いておきます。この方法には、はっきりした限界が3つあります。

  • 請求の範囲に素材名が出てこない出願は、拾えません。明細書の実施例にだけイヌリンが出てくるようなものは、この網にかかりません
  • 逆に、関係の薄いものまで拾ってしまいます。「水溶性食物繊維(イヌリン、難消化性デキストリン、ポリデキストロース等)」のように、選択肢の一つとして名前が書かれているだけの出願も、同じ1件として数えられます
  • まったく別の分野が混ざります。イヌリンは腎臓の機能(糸球体濾過量)を測る古典的なマーカーでもあります。「イヌリンクリアランス」関係の出願が45件ほど入っていました。食品の話ではありません

その一例が、東洋紡と富士薬品の「イヌリン定量法および定量試薬」(特許5021006、すでに消滅)です。名称にイヌリンが入っていますが、腎機能検査用の試薬の特許で、食べるイヌリンとは関係がありません。

数字で見る、イヌリンの特許

出願は、いまも増え続けています

1985〜1989年93
1990〜1994年153
1995〜1999年238
2000〜2004年322
2005〜2009年445
2010〜2014年472
2015〜2019年568
2020〜2024年667
2025年〜67

出願年別。最後の「2025年〜」は、出願から公開まで原則1年6か月かかるため、まだ大半が表に出ていません。この棒だけは他と比べられません。

いちばん多いのが直近の2020〜2024年です。イヌリンは1990年代にヨーロッパから入ってきて一度流行った素材ですが、そこで終わってはいません。腸内細菌の研究が進んだことと、2015年に機能性表示食品の制度が始まったことが、そのまま数字に出ているように見えます。

3,071件のうち、本当に「イヌリンの発明」はいくつか

ここが、このページでいちばん大事な数字かもしれません。

発明の名称にイヌリンなどの素材名が入っているのは、3,071件のうち256件。全体の8.3%です。「イヌリン」で引いた2,109件にかぎると、名称にイヌリンが入るのは94件、4.5%しかありません。

つまり、残りの9割以上は「イヌリンの特許」ではなく、イヌリンを選択肢の一つとして書き添えた出願です。これは悪いことではありません。むしろ、イヌリンがどれだけ当たり前の素材として処方の引き出しに入っているかを示しています。ただ、「イヌリンには3,000件の特許がある」と書くのは誤りです。

食品と、化粧品・医薬が、ほぼ同数です

A23 食品1,128
A61 医薬・化粧品1,115
C12 生化学・微生物269
A01 農業83
C08 高分子81
A21 製パン75
C07 有機化学67
C11 油脂・洗剤45

FI(日本独自の特許分類)の主分類を、大分類でまとめたもの。件数は3,071件の内訳です。

日本語でイヌリンが語られるとき、話はほぼ100%「食物繊維」になります。ところが特許の世界では、半分は化粧品と医薬です。このページの後半で、その中身を見ていきます。

カタカナの書き方で、調べられる範囲が変わります

これから自分で調べる方のために、実務的な注意をひとつ。

イヌリンの仲間は、同じものが二通りのカタカナで書かれます。そして、その二つはほとんど重なりません。

対になる表記 件数 両方に出てくる文献
フラクトオリゴ糖 787 10件
フルクトオリゴ糖 308
フルクタン 317 5件
フラクタン 83
オリゴフルクトース 123 5件
オリゴフラクトース 9

「ラ」と「ル」の一文字違いで、文献の集合がほぼ完全に分かれています。片方だけで検索すると、7割から9割を取りこぼします。しかも件数が多いのは、正式に見える「フルクトオリゴ糖」ではなく「フラクトオリゴ糖」のほうでした。

出願人の名前も同じです。同じ会社が複数の表記で登録されています。

  • ネスレは「ネステク ソシエテ アノニム」と「ソシエテ・デ・プロデュイ・ネスレ・エス・アー」の2通り
  • 明治グループは「株式会社明治」「明治製菓株式会社」「Meiji Seikaファルマ株式会社」の3通り
  • BENEOの前身であるティエンセ製糖は「テイエンセ スイケラフイナデリユ」「ティエンセ スイケルラフィナデリーイェー」「ティアンス・スュイケラフィナデリ」の3通り

会社名で調べるときは、必ず全部の表記を試してください。

分野別に見る

ここからは、実際の特許を分野ごとに並べます。全部で31件。権利にならなかったものも意図的に入れてあります。通ったものだけを並べると、この素材が実際より強く見えてしまうからです。

各カードの番号は、特許番号(登録されたもの)または公開番号(まだ登録されていないもの)です。J-PlatPatの検索窓にそのまま貼れば、原文にたどり着けます。ステータスは2026年9月時点のものです。

1. つくる ── 製法・酵素・原料

特許46766722001年出願消滅

新規イヌリン合成酵素およびそれを利用したイヌリンの製造方法

フジ日本精糖

スクロース(砂糖)に作用してイヌリンをつくるが、ケストース・マルトース・ラクトース・トレハロース・セロビオースには作用しない ── という基質特異性で、酵素そのものを特定した特許。チコリから抽出するのではなく、砂糖から酵素でイヌリンを合成する道を開いたものです。

公開番号 再表02/000865 / 存続期間満了により消滅

特許43072592002年出願消滅

イヌリンの製造方法

フジ日本精糖

スクロースの濃度と反応温度を変えることで、できあがるイヌリンの平均重合度を調節する方法。反応が平衡に達したところでスクロースを追加し、さらに重合を続けると重合度が上がる、という手順も含みます。

公開番号 再表03/027304 / 存続期間満了により消滅

特許57486612010年出願有効

ジフルクトース・ジアンヒドリドIII合成酵素

フジ日本精糖

イヌリンをDFA III という別の糖に変える酵素。80℃での残存活性が90%以上という耐熱性で限定しています。クルトバクテリウム属の微生物に由来するもの。

公開番号 再表2010/147085

特許52497472006年出願消滅

長鎖イヌリン

バイエル・クロップサイエンス

平均重合度DPw 54〜61のイヌリンを含む食品。原料はチコリではなくアーティチョークの根です。単糖・二糖や短い鎖が少なく、加熱・酸・せん断に対する安定性が高い、とされています。

公開番号 特表2008-535983 / 遺伝子組換えではなく、植物からの抽出品です

特許54966542007年出願有効

超長鎖イヌリン

バイエル・クロップサイエンス

上の続きで、さらに長い平均重合度DPw 83〜103。同じくアーティチョークの根から。熱処理・酸処理に対して「異常に高い安定性」を示す、と書かれています。イヌリンとはのページで触れた「pH 5 と 60℃ が境界線」という話は一般的なイヌリンのもので、この超長鎖品はそこが違います。

公開番号 特表2009-535438

特開2026-1340952025年出願審査中

分岐型イヌリンの含有率が高い合成イヌリン、およびその製造方法

日本甜菜製糖

イヌリンのフルクトース同士は普通β(2→1)でつながっていますが、そこにβ(2→6)の枝分かれを持たせた「分岐型イヌリン」を35〜90%含む合成イヌリン。平均重合度15.0以下、25℃の純水10mLに1gが25秒以内に溶け、4℃の純水100mLに25g以上溶ける、という限定つきです。

課題の説明が明快でした。「チコリー由来のイヌリン(直鎖型イヌリン)は、水溶液中で単らせん構造を形成して結晶化し、水溶性が低い」。枝を出してらせんを巻けなくすれば、重合度を変えずに溶けやすくなる、という発想です。バチルス属SD33株由来の2種類の酵素をスクロースに作用させてつくります。

出願番号 特願2025-019532 / 2026年8月20日公開・審査請求済

フジ日本の基本特許2件が満了した直後に、日本甜菜製糖が分子の構造そのものを変えた出願で入ってきた、という並びになっています。酵素合成イヌリンの世代が変わろうとしているのかもしれません。

2. 食品に入れる

特許42786912007年出願有効

クリーム状イヌリン組成物の製造方法

フジ日本精糖

重合度5〜29のイヌリンを95%以上含む粉に常温の水を加えて撹拌するだけでクリーム状になる、という製法。加熱も乳化剤も使いません。脂肪の代わりに使える素材として、以後いろいろな食品に展開されていきます。

公開番号 特開2008-173115

特許72401522018年出願有効

クリーム状イヌリン組成物用のクリーム化剤

オルガノフードテック

上の改良版を、別の会社が取っています。イヌリンと水を40:60〜60:40にしたうえで、メチルセルロース・ヒドロキシプロピルメチルセルロース・カルボキシメチルセルロースのいずれかを、合計の0.5〜3.0質量%加える。これでクリーム化がぐっと容易になる、というもの。

公開番号 特開2020-080733 / 他社が上に改良を積んでいる例です

特許53191972008年出願有効

マーガリン及びスプレッド、並びにこれらの製造方法

明治/フジ日本精糖

重合度5〜29のイヌリンを95%以上含む組成物を1〜60重量%配合したマーガリン・スプレッド。乳化剤の使用量を極力抑え、脂肪分を下げるのが狙いです。

公開番号 特開2010-029120

特許74459482019年出願有効

低糖質化もち及びその製造方法

フジ日本精糖

米・米粉10〜60質量%、難消化性でんぷん10〜50%、水溶性食物繊維3〜45%、増粘多糖類0.1〜10%、水分30〜60%。水溶性食物繊維はイヌリン、難消化性デキストリン、ポリデキストロース、イソマルトデキストリンから選びます。

公開番号 特開2021-036773

特開2006-0750432004年出願却下

麺類の品質改良剤とそれを使用した麺類

フジ日本精糖

イヌリンを麺に入れると、弾力が出て、のど越しがよくなり、茹で伸びしにくく、茹で時間も短くなる ── という出願。権利にはなりませんでした。

みなし取下げ。同時期の練り製品・畜肉惣菜・呈味改良の出願も、いずれも権利になっていません

3. 飲料に入れる

イヌリンをたくさん入れた透明な飲み物は、いまコンビニの棚にある商品カテゴリです。その周りに、サントリーが7件の特許を持っていて、すべて権利が有効でした。代表的な2件を挙げます。

特許67703262016年出願有効

高濃度イヌリン含有水飲料

サントリー食品インターナショナル/サントリーホールディングス

イヌリン1.5〜5.3g/100mL、ナトリウム0.1〜100mg/100mL(食塩由来)、pH 5.0〜6.5。課題は「イヌリンを高濃度で含む飲料をたくさん飲むと、イヌリン特有の雑味を感じる」こと。特定のpHのもとで微量のナトリウムを入れると、その雑味が抑えられる、という発見です。

明細書ではイヌリンを「β(2→1)結合、鎖長2〜100(より好ましくは2〜60)」と定義しています

特許63638122018年出願有効

イヌリンを含有する無色透明飲料

サントリーホールディングス

イヌリン1.0〜6.0g/100mL、マグネシウム0.1〜7.4mg/100mL、波長660nmの吸光度0.06以下、純水を基準とした色差ΔE 3.5以下、イヌリンを除いたBrix 2.0以下。こちらの課題は雑味ではなく「イヌリン特有の甘味を感じにくくする」ことです。

上の水飲料はナトリウム、こちらはマグネシウム。どちらもミネラルで味を整えています

4. からだへの働き

いちばん件数が多く、そして通ったものと通らなかったものがはっきり分かれる分野です。

特許52700582001年出願消滅

栄養性の改良されたイヌリン製品

ティエンセ製糖(現BENEO)

発酵されやすい短鎖イヌリン(DP<10)と、発酵されにくい長鎖イヌリンを、重量比10/90〜70/30で混ぜたもの。要約には「カルシウムおよびマグネシウム吸収の改良、骨ミネラル密度の増加」と書かれています。

公開番号 特表2003-522822 / 存続期間満了により消滅。この配合については論文のページも見てください

特許73215032019年出願有効

イヌリンを含む筋肉量減少抑制又は骨密度減少抑制剤

フジ日本精糖/早稲田大学

イヌリンを有効成分とする、筋肉量の減少または骨密度の減少を抑える剤。一般の食品に使える形での提供を課題としています。

公開番号 特開2020-189799

特許77136992020年出願有効

イヌリンを含む肌状態改善剤

フジ日本精糖

イヌリンを有効成分とする肌状態改善剤、または肌状態改善用の食品組成物。塗るのではなく食べるほうのスキンケアです。

公開番号 特開2022-072515

特許73967982019年出願有効

腸内酪酸産生促進用組成物

帝人

チコリ由来で平均鎖長5〜20のイヌリンと、セルロースを、重量比1:3〜3:1で含む組成物。イヌリン単独ではなく、水に溶けない繊維との組み合わせで権利を取っています。明細書には酪酸産生に3.6倍の相乗効果があったと書かれています。

公開番号 特開2020-130093

特許66375872016年出願有効

副鼻腔炎に対するイヌリンの予防的使用

ズートツッカー

用途をかなり珍しいところに絞った特許です。DP11以上の成分が25〜40重量%、m=2〜9のFm化合物が15〜30重量%、平均重合度6.5〜9のイヌリン組成物を、3歳以上のヒト(特に3〜6歳の子ども)に、子どもは2.5〜15g/日、大人は5〜15g/日。6か月の臨床試験データが添えられています。

公開番号 特表2018-522031

特開2020-1273922019年出願却下

イヌリンを含む整腸剤

フジ日本精糖

1日あたり4.0g以上7.3g未満のイヌリンをヒトに摂取させるための整腸剤。権利にはなりませんでした。整腸はイヌリンの働きとしていちばん広く知られているぶん、新規性を出すのが難しい領域です。

出願の拒絶・却下

特開2024-0063812022年出願拒絶査定

免疫力向上調整剤

フジ日本精糖

唾液IgAや風邪症状には1日3g以上8g以下、アレルギー症状には8g以上20g以下 ── と用量を症状別に書き分けた出願。拒絶査定になっています。

公開はされていますが、権利にはなっていません

特開2023-0337822021年出願審判中

疲労及び/又は気分状態改善用組成物

フジ日本精糖

イヌリンを有効成分とする、疲労と気分状態を改善する組成物。疲労の改善をVASの「全体的疲労感」「精神的疲労感」「身体的疲労感」「自覚的ストレス」「緊張度」「イライラ感」のいずれかの低下、気分状態の改善をPOMS2の「総合的気分状態」の低下として定義しています。

一度拒絶され、いま拒絶査定不服審判で争っている最中です(審判番号 拒絶2026-001688)。

この出願の背景にある試験は論文のページに載せています

特開2026-0713182026年出願審査中

疲労及び/又は気分状態改善用組成物

フジ日本株式会社

上と同じ名称で、2026年2月に出された新しい出願。審判で争いながら、並行して出し直している形です。出願人名が「フジ日本精糖」から「フジ日本株式会社」に変わっているのも、ここで確認できます。

2026年4月28日公開

5. 肌につける

同じ「イヌリン配合化粧品」でも、中身は三系統に分かれます。

特許71416282017年出願有効

化粧料

フジ日本精糖/日本精化

ひとつめは、未変性のイヌリンをそのまま使う系統です。全イヌリンの平均重合度が13〜23、かつ全イヌリン100質量%中に重合度5〜29のものを95質量%以上含む ── という分布で限定しています。水への溶解性が高く、処方中で安定する、というのが売りです。この数値範囲は酵素合成イヌリンの指紋のようなもので、チコリ抽出品は入ってきません。

公開番号 特開2018-188403 / 同じ書き方の出願が2022年・2023年・2025年にも続いています

特許60765822008年出願有効

疎水的に改質されたイヌリンおよび親水性アクリルポリマーで安定化させた高油分O/W型エマルション

ロレアル

ふたつめは、イヌリンに脂肪酸をくっつけた誘導体を主役にする系統です。疎水的に改質されたイヌリン(ステアロイルイヌリン、パルミトイルイヌリン、ウンデシレノイルイヌリン、イヌリンラウリルカルバメート)を0.005重量%以上、親水性アクリルポリマーを0.01重量%以上。界面活性剤を使わずに油の多い水中油型エマルションを安定させるのが狙いです。

ロレアルはこの系統で複数の出願をしており、登録されたものと拒絶されたものが混在しています

特許67391532015年出願有効

疎水性変性イヌリン及びポリエーテル変性シリコーンを含む組成物

ロレアル

同じ系統の続きで、C10〜C18のアルキルカルバメート基で変性したイヌリン(イヌリンラウリルカルバメートなど)と、ポリエーテル変性シリコーンと、UVフィルターを組み合わせたもの。「疎水性変性イヌリンを含むO/W乳剤は皮膚になじみにくく、塗りむらが出る」という課題を、シリコーンの併用で解いています。

疎水性変性イヌリン約0.15〜3重量%、ポリエーテル変性シリコーン約0.1〜2重量%(明細書の好ましい範囲)

特許77676872024年出願有効

油性化粧料

コーセー

みっつめは、イヌリン誘導体を数ある選択肢の一つとして使う系統です。この請求項の主役は架橋型有機ケイ素樹脂と高融点油の配合比(0.02〜50)で、イヌリン脂肪酸エステル(ステアリン酸イヌリンなど)は「油性ゲル化剤」の候補として名前が挙がっているだけ。単独の数値限定はありません。

コーセーは同じ形の出願を58件持ち、いずれも登録・有効です。前半で書いた「選択肢として名前が書かれているだけの出願」の、これが典型例になります

6. 食べない用途 ── ある製糖会社の20年

イヌリンが油田で使われていると聞いたら、意外に思われるでしょうか。オランダの製糖協同組合コスンが、1997年から2005年にかけて、食品ではない用途ばかり8件出願しています。

特許41812211997年出願消滅

フルクタン誘導体

コーオペラティエ・コスン

イヌリンなどのフラクタンに、いろいろな置換基を結合させたカチオン誘導体。この会社の一連の出願の出発点にあたるものです。

公開番号 特表2001-505594 / 出願から20年が過ぎ、存続期間は満了しています

特許50195132005年出願消滅

カルボキシアルキルイヌリンの製造方法

コーオペラティエ・コスン/サームフォス

中性のpHでイヌリンを加え、60〜90℃に加熱し、pH 8〜12のアルカリ条件で反応させる。カルボキシメチルイヌリン(CMI)をつくる方法です。

公開番号 特表2007-532698 / 存続期間満了により消滅

特表2002-5176511999年出願却下

採油での堆積物防止方法

コーオペラティエ・コスン

石油の採掘で、硫酸塩や炭酸塩のカルシウム・バリウム・ストロンチウムがスケールとして析出するのを防ぐために、単糖1単位あたり0.3〜3個のカルボキシル基を持つフラクタンを、処理水に0.5〜200ppm加える。

みなし取下げ。ほかに顔料の分散剤、製糖工程のスケール防止、重金属の錯化剤、漂白活性剤の出願がありますが、生きている権利は日本にはほぼ残っていません

カルボキシメチルイヌリンを、環境負荷の高いポリアクリレートの生分解性代替として売り込む ── という戦略でした。日本ではほとんど権利化できず、2005年を最後に出願も止まっています。

7. 遺伝子組換えでつくらせる

最後は、植物そのものにイヌリンを作らせようとした試みです。どちらも1990年代で、日本では権利になっていません。

特表2001-5179301997年出願未登録

イヌリン産生性トランスジェニック植物の調製方法

シューズッカー/KWSサート

虫歯菌として知られるStreptococcus mutansのフルクトシルトランスフェラーゼ遺伝子を、ジャガイモのパタチン遺伝子のシグナル配列と組み合わせて導入し、イモの中で分子量150万ダルトンを超えるイヌリンをつくらせる。

日本では登録も拒絶もされていない状態のまま止まっています

特許42870461998年出願消滅

フルクトシルトランスフェラーゼ活性を有する蛋白質をコードする核酸分子および長鎖イヌリンの製造方法

マックス・プランク協会

長い鎖のイヌリンをつくる酵素の遺伝子そのものを権利にしたもの。基礎研究側からのアプローチです。

公開番号 特表2001-521757 / 存続期間満了により消滅

論文と、つながるところ

このページと論文のページを並べて見ると、片方だけでは見えないことが二つ見えてきます。

骨のエビデンスがある配合は、日本ではもう誰でも使えます

論文のページに、思春期の子ども100人に1日8gを12か月続けてカルシウム吸収と骨塩量を調べた試験(Am J Clin Nutr 2005)を載せました。そこで使われたのは「短鎖と長鎖のイヌリン型フラクタンを混ぜたもの」です。

その配合の日本特許が、上の特許5270058です。そして存続期間満了ですでに消滅しています。2009年に出された続きの出願も拒絶されました。

つまり、イヌリンの骨に関するヒト試験のうち最も条件の整ったものが使った配合は、日本では特許の制約を受けずに使えます。これは事業者にとって、論文の中身そのものより実務的な情報かもしれません。

論文と、届出と、特許が、揃っていない例があります

イヌリンを1日5g、4週間とった疲労感の試験は、2022年に論文として公表されています。それを根拠にした機能性表示食品の届出も、2025年11月に出ています。

では特許はどうか。上で見たとおり、一度拒絶され、いま審判で争っている最中です。並行して2026年に出し直しもされています。

届出の情報だけを見ていれば「イヌリンに疲労軽減の機能性表示が出た」で話は終わります。特許を並べると、同じ主張が特許庁には通っていないところまで見える。どちらが正しいという話ではありません。制度が違えば判断も違う、というだけのことです。ただ、両方を並べて初めて全体が見える、ということは言えると思います。

特許が切れる、ということ

このページには、消滅した特許をたくさん載せました。全体でも493件が消滅済みです。存続期間は出願から原則20年なので、2006年より前に出された特許は、もう切れているか、まもなく切れます。

切れた特許は、誰でも自由に使えます。そのうえ、明細書には製法も条件も数値も書いてあります。特許制度は、20年の独占と引き換えに技術を公開させる仕組みだからです。

イヌリンでいえば、酵素合成の基本特許も、短鎖と長鎖を混ぜる配合も、カルボキシメチル化の製法も、すでに公有になっています。この素材を使おうとする事業者にとって、道は思ったより広く開いています。

念のため申し添えると、これは「使って大丈夫です」という保証ではありません。ここに載せた以外の特許が生きている可能性はありますし、ステータスも動きます。実際に事業として使われる際は、弁理士にご相談ください。

更新と訂正について

データはJ-PlatPatから2026年9月に取得したものです。特許のステータスは動きます。審査中のものが登録になり、登録が消滅し、拒絶が審判に進みます。このページの記載が古くなっていることに気づかれたら、お問い合わせから教えてください。訂正した場合は、この節にその旨を書き足します。

誤りの指摘も歓迎します。特に、請求項の読み取りを誤っている箇所があれば、遠慮なくご指摘ください。

利益相反について。このページに最も多く登場するフジ日本株式会社(旧フジ日本精糖株式会社)について、運営者は2004年から2006年まで在職し、現在も少数の株式を保有しています。現在、同社との雇用・顧問・業務委託・取引の関係はいずれもありません。詳しくは運営者についてをご覧ください。

このページに掲載する特許の選定は、権利が有効なものだけでなく、拒絶・却下されたものも含める方針で行っています。フジ日本の出願についても、通らなかったものを4件そのまま載せています。

このページは特許の書誌事項と審査経過を整理したものです。特許の成立は、その発明に効果があることを国が認めたという意味ではありません。また、ここに記載した内容は特定の商品の効果を説明するものでも、購入をすすめるものでもありません。権利の有効性や侵害の有無についての判断は行いません。実務上の判断が必要な場合は、必ず弁理士など専門家にご相談ください。このページに広告・アフィリエイトリンクは設置していません。

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