イヌリンの市場規模が調査会社によって8.3倍違う、という話を10月15日に書きました。同じものに名前が二つある、という話を10月27日に書きました。
今回で、この話は終わりにします。最後に見つけたものが、いちばん分かりやすかったので。
11月2日に、「フルクタンの世界市場」の調査レポートが売り出されたという発表がありました。フルクタンというのは、イヌリンが属している親のカテゴリーです。果糖がつながった糖の総称で、イヌリンはその一種です。
親の市場規模が分かるなら、子であるイヌリンの数字とつき合わせられる。そう思って調べました。
まず、親どうしが合いません
フルクタンの市場レポートは、少なくとも2社が出していました。どちらも2025年の数字です。
| フルクタン市場(2025年) | 調査会社 | 市場規模 |
|---|---|---|
| Global Fructan Market 2026-2032 | GlobalInfoResearch | 42億1,800万ドル |
| Fructan Ingredient Market | Market Intelo | 18億ドル |
2.3倍の差です。ここまでは、前回までと同じ話でした。
面白くなったのは、Market Intelo のほうが中身を割って公開していたからです。
親が、子より小さくなります
Market Intelo は、フルクタン市場18億ドルの内訳をこう書いています。
| 内訳 | 構成比 | 金額 |
|---|---|---|
| イヌリン | 38.5% | 6億9,300万ドル |
| オリゴフルクトース | 28.3% | 5億1,000万ドル |
| フルクトオリゴ糖 | 19.8% | 3億5,600万ドル |
| その他 | 13.4% | 2億4,100万ドル |
ここに、前々回と前回に集めた数字を並べます。すべて2025年、すべて各社の公開ページにあるものです。
| 子のカテゴリー(2025年) | 調査会社 | 市場規模 |
|---|---|---|
| イヌリン市場 | 360iResearch | 19億8,000万ドル |
| イヌリン市場 | IMARC Group | 19億ドル |
| イヌリン市場 | Knowledge Sourcing Intelligence | 16億9,100万ドル |
| フラクトオリゴ糖市場 | 360iResearch | 37億ドル |
| フルクトオリゴ糖の世界市場 | The Business Research Company | 31億7,000万ドル |
並べると、こうなります。
- イヌリン単独が19億8,000万ドル。フルクタン市場の全体(18億ドル)より大きい
- フラクトオリゴ糖単独が37億ドル。Market Intelo のフルクトオリゴ糖の区分(3億5,600万ドル)の10倍
- イヌリンとフラクトオリゴ糖を足すと56億8,000万ドル。もう一方のフルクタン市場(42億1,800万ドル)も超える
親より子のほうが大きい。そういう数字が、公開ページに並んでいます。
入れ子の関係は、私が当てはめたものではありません
ここは大事なところなので、はっきり書いておきます。
「イヌリンはフルクタンの一種だから、イヌリン市場はフルクタン市場より小さいはずだ」── これは私が外から持ち込んだ理屈ではありません。レポートを出している側が、自分でそう書いています。
- 11月2日の発表は、フルクタンをタイプ別に「イヌリン型、レフトグリカン型、混合型」に区分すると書いています
- Market Intelo は、フルクタン市場を「イヌリン/オリゴフルクトース/フルクトオリゴ糖/その他」に区分しています
どちらも、イヌリンをフルクタンの下位区分として扱っています。それなのに、各社の数字を並べると下位が上位を超える。
それぞれは、内部では合っています
念のため、各社の数字が雑に作られているわけではないことも書いておきます。
11月2日の発表には、市場規模のほかに消費量98万トン、平均価格1kgあたり4.4ドルという数字も載っています。掛け算すると43億1,200万ドル。掲載の42億1,800万ドルと、ほぼ一致します。
Market Intelo のほうも、4つの区分の構成比を足すと100%になり、18億ドル×38.5%は6億9,300万ドルで合っています。
どのレポートも、内部では筋が通っています。合わないのは、互いの間だけです。前々回に書いたのと、まったく同じ形でした。
なぜそうなるのかは、やはり分かりませんでした。どこまでを「フルクタン」に含めるか、原料の出荷額か最終製品の売上か、地域や用途をどう切るか。線の引き方が違えば数字は動きます。ただ、どの社がどの線を引いたのかは、無料で読める範囲には書かれていません。
この話は、これで終わりにします
3回にわたって同じ題材を書きました。見つかったものを並べると、こうなります。
- 同じものを測って、数字が8.3倍違う(第4回)
- 同じものに、名前が二つある(第5回)
- 入れ子の関係が、数字のうえでは成立しない(今回)
言いたかったことは、ひとつだけです。調査レポートが悪い、という話ではありません。
あれは前提を承知のうえで買う人の道具です。事業計画を立てる、投資判断の材料にする、社内を説得する。そのために作られていて、その用途では機能します。価格も、前提を精査する手間に見合うように設定されています。
困るのは、プレスリリースの数字だけが前提から切り離されて流通することのほうです。「イヌリン市場は29億ドル」「フルクタン市場は42億ドル」という一文がニュースになり、引用され、誰かの根拠になっていく。そのとき、元の定義はもうどこにもありません。
このサイトは、無料で誰でも読めて、出典を必ず添える方針でやっています。だから自分で確かめられない数字を、事実として置くことはできません。市場規模を載せないのは、そういう理由です。
次からは、また別の話を書きます。
更新と訂正について
各社の市場規模は、2026年11月5日に公開ページで確認したものです。イヌリンとフラクトオリゴ糖の数値は、第4回・第5回の記事と同じ2026年10月時点のものです。ページが更新されれば数字も変わります。
なお、各社の調査手法や品質について、私は何も評価していません。公開されている数字を並べ、それらが入れ子として成立していないという事実を書いただけです。定義の違いで説明がつくのであれば、それはそれで知りたいところです。
お気づきの点があればお問い合わせからご指摘ください。訂正した場合は、このページに記録を残します。

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