前回、イヌリンの市場規模が調査会社によって8.3倍も違う、という話を書きました。なぜ違うのかは分からなかった。ただ、何をどこまで数えたのかが決まっていない、という点だけははっきりしていました。
最後にこう書いて終わりました。
何を数えているのかが決まっていない、という話は、億ドル単位の市場規模だけで起きているわけではないようです。
今回はその話です。桁は億ドルではなく、カタカナ一文字です。
一文字違いで、文献がほぼ分かれます
イヌリンの仲間には、同じものを指す言葉が二通りのカタカナで書かれているものがあります。
特許庁のデータベース(J-PlatPat)で、それぞれ何件ヒットするかを数えました。
| 対になる表記 | 件数 | 両方に出てくる文献 |
|---|---|---|
| フラクトオリゴ糖 | 787 | 10件 |
| フルクトオリゴ糖 | 308 | |
| フルクタン | 317 | 5件 |
| フラクタン | 83 | |
| オリゴフルクトース | 123 | 5件 |
| オリゴフラクトース | 9 |
「ラ」と「ル」の一文字違いで、文献の集合がほぼ完全に分かれています。
フラクトオリゴ糖とフルクトオリゴ糖を足すと1,095件ですが、両方に出てくるのは10件だけ。つまり片方の表記だけで検索した人は、少ないほうを選んだ場合に7割を取りこぼします。オリゴフラクトースにいたっては9割以上です。
そして取りこぼしていることに、たぶん気づきません。検索結果は、ちゃんと出てくるからです。
消費者庁では、片方が0件になります
これが特許庁だけの話なら、まだ救いがあります。そうではありませんでした。
製品データベースを作るとき、消費者庁の機能性表示食品の届出情報を検索しました。機能性関与成分名の欄に「フルクトオリゴ糖」と入れた結果が、これです。
0件。
ところが「オリゴ糖」で広く検索した結果のなかには、「フラクトオリゴ糖」が32件ありました。
存在するのに、綴りを間違えると存在しないことになります。特許庁なら件数が減るだけですが、消費者庁では「そんな製品はない」という結論になってしまう。実際、私も最初に0件を見たときは、一瞬そう思いました。
制度も官庁も別なのに、登録されている表記は揃って「フラ」のほうでした。
では、どちらが正しいのか
調べられる範囲で、公的な機関がどちらを使っているかを見てみました。
- 特許庁(J-PlatPat)── 両方。ただし「フラクトオリゴ糖」787件に対して「フルクトオリゴ糖」308件
- 消費者庁(機能性表示食品の届出)── 「フラクトオリゴ糖」のみ。「フルクトオリゴ糖」は0件
- 国立健康・栄養研究所(「健康食品」の安全性・有効性情報)── 「フラクトオリゴ糖」のみ
日本の公的な場所では、「フラクト」のほうが事実上の標準になっています。
ここで少し不思議なことがあります。この糖のもとになっている単糖、つまり果糖のことを、日本語では「フルクトース」と書くのが普通です。英語の fructose に素直に対応しています。
ところが、そのフルクトースがつながってできたオリゴ糖のほうは、「フラクトオリゴ糖」と呼ばれている。
素材の名前と、素材を作っている糖の名前で、カタカナが割れています。なぜそうなったのかは、調べきれませんでした。ご存じの方がいたら教えてください。
会社の名前も、商品の名前も割れています
揺れているのは成分名だけではありませんでした。
特許のページを作るとき、出願人の名前でも同じことが起きました。同じ会社が、複数の表記で登録されています。
- ネスレは「ネステク ソシエテ アノニム」と「ソシエテ・デ・プロデュイ・ネスレ・エス・アー」の2通り
- 明治グループは「株式会社明治」「明治製菓株式会社」「Meiji Seikaファルマ株式会社」の3通り
- BENEOの前身であるティエンセ製糖は「テイエンセ スイケラフイナデリユ」「ティエンセ スイケルラフィナデリーイェー」「ティアンス・スュイケラフィナデリ」の3通り
消費者庁の届出でも同じです。フジ日本は「フジ日本株式会社」「フジ日本株式会社(旧社名:フジ日本精糖株式会社)」「フジ日本精糖株式会社」の3通りで登録されていました。
商品名に使われる「菊芋」も、菊芋・菊いも・きく芋・きくいもの4通りが混在しています。
そして、市場レポートも分かれていました
ここからが今回いちばん驚いたところです。
前回の記事で、市場調査レポートの販売代理店であるグローバルインフォメーション(GII)のサイトを見ました。今回、同じサイトでフラクトオリゴ糖の市場レポートを探したところ、こうなっていました。
| レポートの表記 | 発行元 | 2025年の市場規模 |
|---|---|---|
| 「フラクトオリゴ糖市場」 | 360iResearch | 37億ドル |
| 「フルクトオリゴ糖の世界市場レポート2026」 | The Business Research Company | 31億7,000万ドル |
同じ店の棚に、同じ年の、同じ素材の市場規模が、違うカタカナと違う金額で並んでいます。
しかも「フラクトオリゴ糖市場」のページは、本文のタイトルが「フラクト」なのに、メタ説明文には「フルクト」が使われていました。1ページのなかでも揃っていません。
前回の記事で、チコリ由来だけか、イヌリンだけか、原料か最終製品か、という線の引き方の話を書きました。今回わかったのは、それ以前の問題として、同じものを指す言葉そのものが揃っていないということです。
億ドルの話とカタカナの話は、同じ問題の両端でした。
自分で調べるときの手順
ここまで読んで「面倒くさい」と思われたと思います。実際に面倒です。ただ、手順にしてしまえば難しくはありません。
- 成分名は、必ず両方の表記で検索する。フラクト/フルクト、フルクタン/フラクタン、オリゴフルクトース/オリゴフラクトース
- 結果は足す。ただし重複を除く。そのまま足すと二重に数えます
- 0件は「ない」ではなく「その綴りでは登録されていない」と読む。特に消費者庁
- 会社名は表記ゆれを疑う。カタカナの外国企業名、旧社名、グループ会社は特に
- 広めの語で一度引いて、結果のなかを見る。「オリゴ糖」で引いてから中身を確認する、という回り道が結局いちばん確実でした
このサイトの特許のページで「出願3,071件」と書いているのは、イヌリン関連の7つの語で検索して、重複を除いた数です。片方の表記だけで数えていたら、まったく違う数字になっていました。
更新と訂正について
特許庁と消費者庁の件数は2026年9月に集計したものです。市場レポートの数値は2026年10月27日に公開ページで確認しました。どちらも後から変わります。
「フラクト」と「フルクト」の表記が分かれた経緯をご存じの方、あるいは私が見落としている公的な表記の基準をご存じの方は、お問い合わせから教えていただけると助かります。訂正や追記をした場合は、このページに記録を残します。
出典
- 特許庁 J-PlatPat(請求の範囲検索、2026年9月集計)── 集計方法はイヌリンの特許に記載
- 消費者庁 機能性表示食品 届出情報検索(2026年9月集計)── 収録基準はイヌリンの製品に記載
- 「健康食品」の安全性・有効性情報(国立健康・栄養研究所)
- フラクトオリゴ糖市場:世界市場予測、2026年~2032年(360iResearch/グローバルインフォメーション)
- フルクトオリゴ糖の世界市場レポート2026(The Business Research Company/グローバルインフォメーション)


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